本年度は準結晶として最も広い領域において単一相が作製できるAl-Mn-Si-Ru系をとりあげ、その結晶相との比較において、準結晶相における電子物性、特に磁性について研究を行った。実態の試料はAl(62)Mn(20)Si(10)Ru(8)で単ロール法で準結晶を作製し、またそれを800℃で1時間アニールすることにより結晶相を得た。これらの試料につきまず帯磁率の温度依存性を測定した。その結果約50K以上の高温ではいずれの場合もキュリーワイス則に従い、Mnの磁気モーメントにはあまり差がないことがわかった。又約20K近傍で帯磁率に山がみられスピングラス的な磁気秩序が低温で存在することが推察された。次にAl核のNMRを観測し、そのスペクトルの幅、位置、緩和時間の温度依存性を測定した。高温で準結晶、結晶相とも幅は帯磁率に比例して温度変化し、幅の原因が磁気的相互作用によっていることが分った。しかしながら低温では、結晶相ではみられない急激な幅の増大は準結晶相においてみられた。これは帯磁率の温度変化より大きく幅が増大しており、スピングラス的な磁気的秩序が準結晶相においてより強く発生していることを物語っている。更にこのような異状は核磁気緩和時間の温度依存性にも現れ、準結晶中で低温において緩和率の急激な増大がみられた。このような実験結果は帯磁率ではあまりみられない。磁気的相互作用の差がNMRの研究よりはっきりしたことになり、準結晶になると構造上の変化より磁性がより活性化されると結論できる。このことは従来の我々のNMRによる準結晶の研究とも一致する一般的な性質である。しかしながら、いわゆる準結晶の電子物性の解明という意味からすると研究はまだ不十分で、かつ理論的にもこの電子状態をどう記述するかについては不明な点が多い。これらは今後の課題である。
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