本年度は5回対称を有する全く新しい構造である準結晶の電子物性を核磁気共鳴(NMR)という極めて局所的な性質を反映する研究手段を用いて明らかにすることを目的としたものである。具体的な問題としては(1)格子構造の準周期性に起因する伝導電子の波動関数の特徴を明らかにする。 (2)磁性を示す準結晶試料において磁気モーメントを持っている原子の位置する格子位置を固定し格子位置と磁気モーメントの大きさとの関連を明らかにすること等である。 まず62年度は当時準結晶としてもっとも代表的であるとされていたAl-Mn系合金をとりあげ種々の合金濃度についてNMRの観測に成功した。それらの共鳴位置や形からAl(80)-Mn(20)の合金が準結晶としては単相であり、この合金が結晶相では非磁性であるにもかかわらず、準結晶になると一部のMnに磁気モーメントが発生し、磁気的になるという結論を導いた。63年度はこの研究を三元合金や四元合金に拡張し、特にAl-Mn-Si-Ru系をとりあげ集中的な研究を行った。実際の試料は単一相であるAl(62)Mn(20)Si(10)Ru(8)で単ロール法で準結晶を作成し、またこれを800^。Cで1時間アニールすることによる結晶相を得た。これらの試料につき帯磁率やNMRの線形、緩和時間の温度依存性が詳細に調べられた。この結果約50K以上の高温ではどちらも磁気的には差がないが、低温では準結晶の方が磁性が結晶相に比べ顕著に大きくなり、より低温で磁気的な秩序相が出現することが判明した。更に、他の準結晶、Al-Li-Si-やMa-Ga-Zn系のように遷移金属を含まない準結晶にも研究を発展させ上記のような特徴、つまり準結晶の方が結晶相より磁性が活性化されるという一般的な性質を明らかにした。しかしなが電子物性を解明するという意味では研究はまだ不十分で、かつ理論的に準結晶の電子状態をどう記述するかについては不明な点が多く、今後の課題である。
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