研究概要 |
強磁性体中にパラメトリック励起されたマグノン系に発生する量子カオスの特性を研究する目的で, マイクロ波素子が光学アイソレーターなど応用面でも注目を集め, 多角的に磁性研究がなされているところのYIG(イットリウム鉄ガーネット)にカオスを発生させ, その特性を定量的に研究した. カオスを発生させる方法にはパラメトリック励起法の一つである平行励起法を採用した. この方法では磁気モーメントに平行方向にマイクロ波磁場を加えることによって, 周波数が励起マイクロ波の半分で波数が+kと-kのマグノン対が励起される. 測定は温度4.2K, 励起マイクロ波周波数は8.9GHzで, 静磁場とマイクロ波磁場の両方を磁化容易軸である〔111〕軸方向にかけて行った. 加えるマイクロ波電力を次第に大きくして行き, その値がマグノン緩和時間で決まるあるしきい値を越えると, その時励起しているマグノンのみが雪崩現象的に急激に増大し, 他の波数を持ったマグノンは熱平衡状態のままと言う現象が起こる. 励起をさらに大きくし続けると, そのマグノン数はやがて規則的な時間変化を始め, 次いで不規則振動となりカオスが発生する. 実験で得られた時系列データをコンピュータで解析して, ストレンジアトラクタの位相空間における性質を詳しく調べ, 薄いシート状になっている軌道面が位相空間内を周回する間に, 引き伸ばされ次いで折り畳まれると言う操作が, 無限回繰り返されると言うことが明らかになった. この事実によりストレンジアトラクターのフラクタル性が確証された. またそのフラクタル次元は相関積分の方法によって2.0と求められた. カオスの本質はそのフラクタル性にある. ストレンジアトラクタは多重フラクタル構造をしていることが最近明らかになってきたが, それを定量的に明らかにする方法の一つであるf(α)スペクトルを決めることが今後の課題になると考えられる.
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