研究概要 |
ABX_3Jahn-Teller結晶であるCsCuCl^3は, Jahn-Teller効果によって423Kで構造転移をおこす. この構造相転移を微視的見地に立って, 核磁気共鳴(NMR), 核四重極共鳴(NQR)によって研究を行った. 結晶変態によって引きおこされる物性的変化が, 共鳴腺の周波数, 線幅, 緩和時間等の変化としてあらわれるため, これらの正確な測定が必要となる. しかしながら, CsCuCl^3中のCu原子は, 常温で常磁性状態にあるため, 各原子の共鳴信号の線幅, 緩和時間が, 非磁性物質にくらべて数十倍に拡がっていることが予想された. その上, 相転移温度(423K)での共鳴信号強度は, 常温での半分程度まで減少する. このような種々の測定上の困難が予想されたため, NMR, NQR測定装置の製作・改良を行った. 1)線幅を正確に測定できる自動測定可能なマージナル発振検出器の開発, 2)パルス法NMR(NQR)装置の製作を行った. その結果, 1)では, 線幅が20KHz程度までの信号の測定が可能なマージナル発振検波器の製作に成功し, コンピュータ制御による自動化も行っている. その結果は, 昭和63年1月の第9回NQR国際研究集会(インド)で発表した. 2)については, マイクロコンピュータを使用して, 積算器を製作し, パルス法における積算能力を飛躍的に向上させ, 共鳴信号のS/N比を改善させることに成功した. これらの装置を使用して, CsCuCl_3の粉末試料のCl核のNQRを行ったところ, Cl原子の2つのサイトのうち, 1つのサイトの共鳴信号を測定することが, できた. その結果, 線幅は, 約12KHz, 緩和時間T_1は, 数10μsecと, 広幅で, たいへん短い緩和時間を持つことがわかった. この粉末試料を使用して, zeeman磁場によって, 非対称パラメータηを決定し, その温度変化から構造相転移を研究していく予定である. また, これと平行して大きな単結晶を作製して, 単結晶による研究もあわせておこなっていく.
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