本年度は、角度分解型トンネリングスペクトロスコピーにより期待されるフェルミ面の異方性がトンネル電流にどのように反映されるのかを予測するため、トンネル電流の角度依存性に関するシミュレーションを行なった。その結果、計算機の能力不足により、ごく小さな範囲でのモデルしか扱えなかったが、以下のような結果が得られた。トンネル電流の計算には、単に実空間での波動関数の重なりだけではなく、原子間の位相関係も考慮する必要がある。対称性の良い位置で回転させても、波数空間に関する情報は得られない。波数空間に関する情報を得るには、対称性が悪い位置で回転させなければならない。検面を試料面から適当な距離だけ離して回転させることによって、波数空間における情報を得ることが可能となる。 また、角度分解型トンネリングスペクトロスコピーを行なうために必要な装置の作製を行なった。測定原理上、原子オーダーの位置合わせおよび平行性が必要なため、まず、STMの技術を応用することを考えた。そこで、最終的には角度分解型トンネリングスペクトロスコピーが行なえるようなSTMを作製した。その結果、従来のSTMとは以下の点で異なる装置となった。試料(1)は対向している試料(2)に対して平行だしができるようにし、さらに、試料(2)に対して通常のSTM動作が行なえるようにした。試料(2)は0〜180°回転できるようにした。本年度は、試料(2)にタングステンの針を取り付け、トンネル接合の安定性およびSTMとしての動作確認を行なった。その結果として、像の再現性にやや欠けるが、グラファイトのサイトに起因すると思われる原子像と、1T-TaS_2の電荷密度波に起因する電荷分布像を確認することに成功した。
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