本研究は、結晶のフェルミ面の異方性を観測する手段として、角度分解型トンネル分光法を提案した。そして、この方法を用いて。層状構造物質1TーTaS_2のフェルミ面にできた電荷密度波(CDW)によるエネルギ-ギャップの異方性を観測することに成功した。 二つの結晶の平坦な劈開面を、一定の間隔dで平行に配置し、両者間にバイアス電圧を印加するときに流れるトンネル電流は、結晶の格子定数aがdに比べてa<dの場合は、両結晶のブロッホ状態間のトンネリングとなる。この場合、始状態と終状態はkベクトルで指定され、直接トンネリングにおいて、kベクトルの横成分は保存される。2次元性の強い物質では、フェルミ面は2次元面に垂直な向きのチュ-ブ状の形状をもつので、2次元面を用いたトンネル接合の低バイアス・トンネリングは、両物質の平行なチュ-ブ状フェルミ面の交線で生じる。それゆえ、2つの結晶をトンネル接合面内で回転させると、両物質のフェルミ面が相対的に回転し、交線の位置が移動するので、トンネル電流にフェルミ面の異方性が反映されることになる。以上の諸性質を、層状構造物質2HーTaS_2に対する計算機シミュレ-ションによって明らかにした。 実験的には、1TーTaS_2のフェルミ面にできるNearlyーCommensurate CDWギャップの異方性を室温で観測することに成功した。このことより、フェルミ面がk空間の狭い領域に限られている既知の物質を、プロ-ブ物質として接合面の一方の物質に用いれば、もう一方の物質のフェルミ面の異方性に関する情報を得ることができることが示された。
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