前年度迄に導いた一般論の式を基にして以下の点について大型計算機による数値計算を行い、1.2.にのべるような新たな知見を得た。この研究の着想と成果は1988年に行われた日ソ強誘電体会議で報告し、その報告集である雑誌Ferroelectricsに印刷中である。 1.静電的双極子-双極子相互作用の効果 強誘電体相転移で重要な静電的双極子-双極子相互作用が全体の相互作用に占める割合をパラメータDとして誘電率の計算の際に取り入れた。その結果D=Oの場合の計算に比してこの理論の重要なパラメータであるt_θの影響をより強調することが明らかになった。この結果はJ.Phys.Soc.Japanに掲載された。 2.量子常誘電体理論の見直し T=Oに近ずくにつれ光学的ソフトフォノンの振動数が減少するが飽和し強誘電相は実現しない現象は、零点振動の結果この減少が抑制され、量子誘電性とでも呼ぶ現象が生じていると考えられている。この現象を記述するため、h→Oで古典論である2の結果と一致するRというパラメータを導入しこれまでの理論を書き直し、1のt_θの効果を分離した。また2のDを考慮すると、Rによる抑制の効果が軽減されることが解った。この研究は岡山理科大学・松原武生教授との共同研究として行われた。その結果は本論文としてJ.Phys.Soc.Japanに投稿した。 この研究費を利用して岡山理科大学・松原武生教授と共同執筆中の単行本「誘電体」は、ほぼ本文が完成し現在図表の整備と演習問題及び解答の作製を行っている。
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