1.これまでの高圧実験によると、V族元素のうち軽いPとAsは高圧下で菱面体のA7構造から単純立方構造に相転移する。さらに、単純立方構造は体心立方構造へと転移することが我々の計算により示された。一方思いSbとBiは単純立方構造を経ずに体心立方構造になる。これらの違いをそれぞれの元素の原子エネルギーレベルと関連ずけて解析して、その起源を明らかにした。まず、境界に位置するAsとSbのそれぞれの原子のsとbレベルの中間のエネルギーを与えるような擬原子ポテンシャルを第一原理に基づいて作成した。そのポテンシャルを用いて単純立方構造と体心立方構造とに着目し、全エネルギー、バンド構造、状態密度および電荷密度を計算して以下の結論を得た。(1)sレベルの変化に対してそれぞれの量の変化は鈍感である。(2)一方、pレベルの変化には非常に敏感である。(3)AsのレベルとSbのpレベルを持った擬原子の単純立方構造の電荷密度はSbのそれとほとんど同じである。(4)単純立方構造の結合電荷は主としてp電子である。従って、AsとSbの相転移の違いは両元素のpレベルに起因していることが分かった。 2.Pの黒燐構造の易動度の方向依存性は、電子と正孔の有効質量の方向性と異なっており、これまで未解決の問題であった。この原因は電子-格子相互作用の異常な方向依存性によるものと考えて解析を試みた。固定イオンモデルと長波長フォノンモデルに基づいたデフォーメーションポテンシャルをバンド計算から求め、ボルツマン方程式を解き、実験とほぼ一致する値を得た。異方性の原因は横波弾性波の異常なソフトニングによることが分かった。
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