フラストレーションを含むランダム系においては準安定状態が多数存在し、位相空間でみた自由エネルギーは複雑な多谷構造をもつ。その階層的な構造、および、それに起因するダイナミックスや記憶現象に対するより深い理解を目的として、おもにスピングラスの平均場模型に関して詳細な解析を行なった。また、擬1次元導体に生ずる電荷密度波(CDW)をスピングラス的なランダム性をもつ多自由度非線形動力学系であるとする観点から、CDWを古典力学に従う連続媒質と見なす福山ーLeeーRice(FLR)の模型に基づいた解析を行い、その多様な電気伝導現象を統一的に理解することを試みた。本研究により以下の点が明らかにされた。 1.スピングラスの平均場模型に関して:(1)SK模型の、実磁化空間でみた自由エネルギー構造は超計量的であり、熱活性化過程による状態の緩和過程は引き延ばされた指数関数型になる。(2)個々のスピングラス物質のもつ相互作用の特長を捕えるようにSK模型を拡張することにより、それぞれの物質でのリエントラント転移の振舞いなどを説明できる。(3)SK模型から導かれたスピングラス描像が、SK模型の状態方程式においてOnsagerの反跳場項を除いた式で記述される系(ナィーブ平均場模型)にも当てはまる。 2.CDWのダイナミックスに関して:(1)FLR模型の非線形電気伝導度は特長的な次元依存性を示し、3次元系のものが実験結果に対応する。(2)CDW系のモードロッキング現象は、外部交流電場に誘起された協力現象と理解される。(3)熱浴効果を含めたFLR模型におけるCDW電流の確率的な振舞いは、狭帯域雑音ピークの幅や1/f型の広帯域雑音の実験結果とよく符合する。これらの現象は、CDWの運動パターンにも定常状態に近いものが多数存在し、熱活性化過程によってCDWがその間を確率的に推移することに起因するものと理解される。
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