研究概要 |
高純度n-GaAsにおいて中性ドナーの衝突電離過程によって生ずる電流フィラメントのカオス現象に関して, 多くの知見が得られたのでここにその研究実績を報告する. 4.2Kの低温では, 電流フィラメント形成に伴って電流-電圧(I-V)特性は安定なヒステリシスを示す. そのヒステリシス領域に負荷線(直流バイアス)を設定し, Vdc+Vac sin-(2πfot)の形の外部変調をおこなうと種々の周期振動及びカオスが観測される. 本研究では, 制御パラメータとしてVdc及びfoを変化させ分岐現象とカオスの統計的性質について明らかにした(J.Phys.Soo.Jpn.57(1988)P.26). 1.分岐現象 1.33V<__〜Vdc<__〜1.42V, 0.9MHz<__〜fo<__〜1.43MHzの範囲で分岐の相図を得た. 例として, foを1.2MHzに固定してVdcを低い方から増加させてゆくと, 1T→C→7T→C→6T→……→C→3T→C→2T→I_<1,2>→1Tといった分岐現象が得られる. ここでCはカオス, nTはn周期のリミットサイクル, I_<1,2>は周期1と2の間の外因性クライシスを表わしている. この周期振動とカオスが交互に現われる分岐は化学反応(B-Z反応)で報告されている分岐現象とよく似ている. 外因性クライシスは周期倍分岐(2T→1T)の分岐点あたりで観測されている. 2.カオスの統計的性質 カオス振動のデータをマイクロコンピュータシステムで蓄積し, フーリエスペクトル, ポアンカレー切断面, フラクタル次元, 及びK-Sエントロピーが解析された. フラクタル次元の下限として相関次元を求めると2.15±0.1という値が得られた. 又, K-Sエントロピーは0.37であった. このことからカオスの統計的性質が明らかになり, その決定論的ふるまいが定量的に証明された.
|