研究概要 |
本研究申請により、フラストレートした系の基底状態に関する情報と、フラストレート系から起こる相転移に関連した新しいユニバーサリティクラスに属する臨界指数を実験的に追究した。 基底状態に関する物理量のうち、特に量子スピン系で大きいとされるスピンの縮みの大きさを核比熱測定から見積ろうとした。VX_2(X=I,Cl,Br)系では、スピンの縮みはS=3/2の約40%となった。これは10^<-13>秒の時間スケールで得られた中性子回折の70%という見積りと大きく異なる。基底状態に関する動的側面が浮上し、今後の重要な課題となろう。 一方、スピン液体又はフェルミ液体状態に対応するT^1項が低温比熱に出現するか否かについてはVX_2シリーズでは否定的であった。不純物を含まないスピンS=1/2のフラストレート系の合成に成功することが非常に望まれている。 フラストレート系の相転移のうち、新しいユニバーサリティクラスの存否に関しては、VBr_2系でα=0.59という大きい値を得た。我々の発表と時を同じくしてもβ,γ,ν等の臨界指数も求められ、この概念も確立されつつあるように思えるが、結論する段階には至ってない。CsMnBr_3についてαを決定しようとしたが、一次元性が強すぎてαは定義しない方が良いと我々は思う。一方フラストレート系特有の遂次相転移現象はLiNiO_2でも、我々は帯磁率測定から見つけているが、比熱測定には、何ら異常を示さないことがわかった。 本研究進行の途中で発表された高温超伝導の発現機構の中に、アンダーソンが最初に量子フラストレート系で提唱したRVB状態を基礎におく論文が数多く出ている。我々の研究の流れもRVB状態を追究する立場にあり、これを有機ラジカルに求める方向で、新しく研究を展開させはじめたところである。報告書の最後に述べてあるTPVに対する実験は、そのはしりである。
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