研究概要 |
陽電子(e^+)ビームのエネルギー巾を狭くする実験は本研究の計画通りに遂行された. すなわち, 弱いRI線源を用い, TOF法で作られたビームに対して, TOFスタートパルスでゲートしたパルスを偏向板にかける方法をとった. 数eVのビームに対しては巾0.5eVに, 10〜30eVに対しては巾1eV程度のビームが作られた. このエネルギー巾を狭くする方法は始めて開発されたもので, 類似して作られた電子(e^-)ビームに対しても適用され, 同程度の成果が得られた. このようにして得られたe^+およびe^-ビームは原子分子に対する非弾性衝突実験に用いられる. 我々はO_2分子のSchunain-Runge励起バンドに対するe^+とe^-ビームの衝突断面の相異を測定した. これについての研究はすでに論文にして投稿中である. 本研究のもう1つのテーマであるe^+およびe^-ビームの原子分子に対する全断面積の比較については, 我々のデータも含めて世界で今まで発表されたデータもまとめてみた. これも1987年の国際e^+ワークショップで発表した. 従来の我々のデータは400eVまでで精度的にも不十分であった. TOF装置の飛行管の長さを従来のものの4倍にし, 最高エネルギーは2000eVまで高くできる装置に改造した. まだこの新装置の使用テストの段階である. 近々本格実験も進むものと思われる. 試料気体はHe,Ne,Ar,Kr,Co,Co_2, N_2, CH_4, SiH_4, NH_3, H_2o等々多くのものについて行なう. 注目点はe^+とe^-の全断面積がほゞ一致するエネルギーを求めることで, なぜ試料原子分子依存性が出るのかである. ボルン近似の扱いが原子核に近づきにくいe^+とそうでないe^-とでどう異なるのかを注目しつつ実験していく.
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