研究概要 |
生物集団の格子模型は, 生息場所が局所的に飽和性をもつこと, 固体の分散や固体間相互作用の到達距離が種の生息域に比して小さいことを端的に取入れ, 生息場所を格子点上として, 系の時間発展をマルコフ過程で与える数学的モデルである. これによって, 局在的環境と遺伝によって定まる死亡率と増殖率が, 多世代後の系のあり方に及ぼす効果を追尾し, 環境と生物の形質間の関連性を包括的に明らかにしようとするのが本研究の目的である. 最も簡単な場合として, 個体は遺伝的に+, -, 2型に分かれ, 増殖は子の空格子点への侵入によってのみ可能で, 侵入率は型によらず一定とした. 死亡率は最近接格子点の情況のみによって定まり, 最近接格子点にある+型, -型個体1コ当たり定数β_+,β_-(β_+>β_-)だけ死亡率の低下が起こるとし, 子の型は確率μで親と異なるとした. +型は-型よりも隣者愛が強く, -型はより攻撃的であると見倣され, 利他的行動進化の条件が定性的に求められた. このようなモデルの汎用性にかんがみ, 定量的結果を得るための近似法と適用限界を知ることは有意義であろう. その手始めとして, +型,-型に差はなく, β_+=β_-=0である場合の個体分布を, 個体の隣の格子点に個体が存在する確率p, 空格子点の隣に個体が存在する確率qで代表させ, 切断近似でp,qを変数とする2次元力学系の平衡点とその安定性より平衡状態を求め, 計算機シミュレーションの結果と比較した. 両者の一致はよく, 切断近似の有効性が判った. さらに, 個体が隣に与える迷惑が非対称な例として樹高の進化を考察した. このときには, 先ず低い樹種が広がり, 次により高い種へと次々に置きかわって, そこへ再び低い樹木が侵入するといった循環遷移が生じ, 必ずしも安定平衡にはならないことが判った.
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