これまで希ガス液体は放射線の検出媒体として注目されながらも、移動速度W以外の電子移動過程はあまり実験的には調べられていなかった。われわれは、以前液体アルゴン、液体キセノン中における電子のeD_T/μを測定したことがあるが、今回液体キセノン中での比例蛍光現象を用いて電子のeD_L/μを測定した。ここで、eは電子電荷、D_Tは電場に垂直な方向への拡散係数、D_Lは縦拡散係数、μは液体キセノン中での電子の移動度である。 実験装置は、電子を一様に電場Eの中で一定の距離を移動させるためのドリフトチューブと、これに持続する半円筒型の比例傾光管及びこれらを冷却する液体窒素クライオスタットが中心である、キセノンはチタンーバリウム系のゲッターを用いて純化したものを液化して使用した。液体キセノン中で、円筒型比例計数管を電子増殖にいたる寸前の電場で作動させ、α線により生成された電離電子群を距離dだけ移動させて、陽極心線に到達したときの比例蛍光波形を光電子増倍管を使用して観測した。このときの比例蛍光波形は、E、dにより異なるが、およそ60〜100nsecの半値幅であった。これから電子群の陽局への到達時間分布を求め、これからeD_Lμを得た。測定は0.6<E<7.5kV/cmの範囲の電場Eのもとで行った。これから求めたeD_L/μの値は0.03〜0.4eVとなった。 以前のeD_T/μの値と今回のeD_L/μの値から、液体キセノン中を電場より移動する電子群の拡散の異方性について、D_L/D_T〜0.1が得られた。この値は、Robson(1972)の理論式D_L/D_T=d(lnW)/ln(E)と吉野ら(1976)の得た電子の移動速度Wのデータとから計算した値、D_L/D_T〜0.15にかなり近いことが分った。現在、これらの結果をとりまとめ、投稿の準備中である。
|