研究概要 |
本年度は10kmから100kmにわたる中層大気の半球モデルを作製した. モデルは平均場と擾乱場に分離され, 擾乱場としてまずプラネタリー波が採用された. 南半球での突然昇温を調べるためには, プラネタリー波の役割が基本的に重要である. 南半球は北半球に比べてプラネタリー波の活動も弱く, 波数1が卓越している. そのために南半球では大昇温は起らず, むしろ小昇温が時々起るといわれてきた. しかしながら, オゾンホール現象が起るためには南極下部成層圏の温度が極端に低く維持されていなければならず, 例え小昇温といえども起ってはならない. すなわち, オゾン量と下部成層圏の温度の間に非常に高い相関があるためである. 一方, 南半球の中緯度帯には高いオゾン量が観測されており, 当然のことながらそこは高温帯になっているはずである. このような南半球の下部成層圏の特異な状態を半球モデルから導出することを試みた. その際もっとも重要なことは, プラネタリー波が一定限度まで増幅するとそこで飽和するという事実である. この条件を使って時間積分を行なった結果, 飽和限界の与え方によって南極上空に寒冷核が, 同時に中緯度に温暖帯が形成されることがわかった. また対流圏から強制するプラネタリー波の振幅に関しても, あまり強すぎてもあまり弱すぎても寒冷核の形成は起らないこともわかった. これらの結果はむしろ予想を上まわる大きな成果であると考えられる. 以上のように, オゾンホール形成にはまずプラネタリー波の飽和が重要なことは理解できるが, これだけではなぜオゾンホールがこの数年拡大してきたかを説明することはできない. 大気重力波の効果をモデルに導入することが次年度の課題として残されている.
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