研究概要 |
マングローブ水域の生態系の保護は世界的な課題となっている. しかしこれまでのこの水域に関する研究はマングローブの生理, 生態学的な立場から進められてきている. マングローブの植生域が陸水と外洋水の接点である感潮域内にあるという特異性を考えると, この水域の水理, 物理機構は生態系全体に重要な位置を占めているといえる. 本研究では, 沖縄県西表島のマングローブ水域であるバシタ湊をケーススタディの対象として, 生物, 化学, 物理の三班による同時調査を実施し, この水域における基礎生産, 栄養潮, 動・植物プランクトン等の変動に対する水理・物理機構(特に, マングローブ地形, 熱帯の太陽放射等に依存する海水・物質交換機構, 水域内の物質分布形成機構)の役割を解明する. バシタ湊は西表島の多くのマングローブ水域と同様, 外海に接する水域の入口で浅瀬(Sill状地形)を形成している. Sillを構成する砂の堆積状態と大潮〜小潮の潮汐状態により, 外海とバシタ湊の間の海水・物質交換は規制される. 外海との交流のある期間, および外海から孤立する期間の両期間の観測が実施できた. その結果, バシタ湊の水理・物理現象としてSill地形の変動, Sill地形による海水交換形態の変化. Sill面下の浸透流の存在, 水域内の密度成層性, 孤立してから中層水が高温となるSolar Pond効果および急速な濁度の増大などが捉えられた. 一方これらに対応して, 化学現象としては, 底層での急速な貧酸素化, 底泥からの栄養塩の溶出, 生物現象としては, 藻類の光合成機能の変化, 動物プランクトンの種とその移動範囲などに関する知見が得られた. しかし, これらの定量的分析, 化学, 生物現象と水理・物理現象の間の因果関係の議論はこれらの現象の確認, 追試とともに昭和63年度の研究として残されている.
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