研究概要 |
本研究の主たる目的であった, 極性超臨界流体中の極性分子周辺のクラスタリングの状況の実験的測定については, かなりの困難があって本年度中に十分なデータを得ることができなかった. しかし, クラスタリングに対する理論的なモデルの構築と, その反応場への適用に関しては大きな進展をみた. すなわち, これまで実験的に観測してきた, 超臨界流体中じの電子スペクトルのシフトの大きさや電荷移動状態の生成のし易さと, クラスタリングの程度との相関関係を理論上明らかにすることに成功した. この理論は, 超臨界流体分子とその中に溶けた溶質分子との分子間ポテンシャルV(r)を基礎として, 流体密度とクラスタリングの数を関係づけるものである. V(r)は, 超臨界流体への溶質の溶解度の密度依存性から, 相互第二ビリアル係数を評価し, これから算出することができる. 溶質分子の周囲に溶媒和殻を考えると, 流体密度ρ_1の時に1ケの流体分子が殻内に存在する条件は JAo1Suで与えられる. ここで, r1-r2は溶媒和殻の内径・外径であり, Nはアボガドロ数, Mは流体の分子量, Kはボルツマン定数, Tは温度である. 溶媒和殻内には有限個の溶媒分子しか収容できないので, その最大数をnとし, 殻内への分子の入り易さがラングミュアー形の平衡で支配されているものとすると, mケの分子が溶媒和する時の流体密度は JAo2Suで与えられる. 以上の計算を, CF_3H-ベンゾニトリル, CF_3H-ジメチルアミノベンゾニトリル, CF_3H-ビアントラセンの各系で行って溶媒和数と流体密度の関係を求め, すでに得られている実験結果と比較した結果, クラスタリングへの統一的描像が得られた.
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