研究概要 |
反応速度法による鉄(II)および鉄(III)の簡便な同時吸光光度定量法を確立した. 鉄(II)はタイロン試薬を含む酢酸塩緩衡液中で酸化され, 反応速度式は一次に従った. 溶液のpHを低下することによって鉄(II)の酸化は抑制され, 反応の完結に12時間以上を要した. pH4付近で生成する鉄(II)-タイロン錯体の吸収スペクトルでは680nmに等吸収点が存在し, 溶液のpHに左右されない鉄の吸光分光分析が可能になった. 鉄(III)錯体のモル吸光係数は2.01×10^3l・mol^<-1>・cm^<-1>であり, 1および10cmの測定セルを用いる方法によって1〜30ppmの鉄(II,III)を分別定量できた. 従来のプログラム解析法(pH5.6)では試料と試薬の混合時間を考慮した遅れ時間の補正を零とするデータ解析が可能であった. 本法を深層地下水中の鉄(II)および鉄(III)の同時測定へ応用した. 地下水中の鉄分は主として炭酸水素イオンと結合した2価の酸化状態で存在するが, 硫酸などを添加しない場合には鉄(II)の酸化がすみやかに進行し, 試料溶液の保存法が分析結果に大きな影響を及ぼすことを明らかにした. pH1.4で保存した試料においても10日目以降で鉄(III)濃度の増大傾向が認められた. また, 共存する銅(II)は鉄(II)の空気酸化を促進したが, マンガン(II), コバルト(II)およびニッケル(II)は同様な効果を示さなかった. タイロン試薬は鉄(III)の錯形成剤および鉄(II)の酸化促進剤として作用することを知った. 本研究において確立した分別定量法の固体試料(岩石など)への適用性に関しては, 現在検討中である. 分析法の高感度化法としてフラボノールスルホン酸試薬を用いるけい光分析法およびクロマズロールS試薬による吸光分析法の可能性が明らかになり, 今後の成果が期待される.
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