多細胞生物の特徴の一つは細胞間に相互作用の見られることであり、細胞間の情報伝達を介して発生分化が行われ、細胞の機能が発現する。マウスの毛包にある色素細胞の形質発現はその細胞自身の遺伝子の働きのみでなく毛の成長過程における周囲の毛包近傍の細胞の遺伝子作用によって決定されることが知られている。この現象は多細胞生物における細胞間相互作用の研究に好適の系であると思われる。我々はすでに毛包細胞において作用するa遺伝子座の産物A因子が色素細胞の表面にあるα-MSH(色素細胞刺激ホルモン)の受容体においてのα-MSHと競合し、色素細胞におけるcAMPのレベレを低下させ、メラニン合成のタイプを決定していることを明らかにしている。この研究においてはさらに細胞間情報伝達物質であるA因子のcDNAのクローニングを行い、a遺伝子座の構造と機能を解明することを目的とした。 先づ遺伝子型A^y/aのマウス皮膚ホモジエネートを遺伝子型a/aのマウスに注射し、前者のマウス皮膚に存在すると思われるA因子に対する抗体の作製を行なった。その抗体を用いて、抗原の存在部位を組織化学的に検索したところ、真皮の毛包近傍の細胞が陽性であることが分かった。この位置は従来の研究結果から予想されるA因子産生細胞のそれと一致する。さらに遺伝子型A^y/aマウスの皮膚からポリA^+RNAを抽出し、逆転写によって、cDNAライブラリーを作製し、λgt11でクローンを化した。その中から上記抗体を用いてスクリーニングを行った結果、約2.8KbpのA^y11と750KbpのA^y9の2クローンを分離した。インシツハイブリダイゼーションの結果、A^y11は真皮の細胞と反応し、A^y9は色素細胞と反応するので、A^y11がA因子のcDNAであり、A^y9は色素細胞における二次的な遺伝子発現の結果生成されたmRNAに由来するものと推定された。
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