真核生物の系統を明らかにする鍵は藻類の進化過程をそのクロロプラストの起源と共に明らかにすることである。従来これは細胞内微細構造の比較、光合成色素の型、代謝産物の比較による分類系統が主であった。一方、近年新しい方法として分子進化学的方法によるアプローチが可能となった。とくにリボソーム構成成分の1つである5SrRNAによって従来まったく系統関係の不明であった菌類界や、細菌類の系統も次々と明らかにされている。 この研究課題では三大藻類(緑藻、褐藻、紅藻)のおのおのについて、代表種においてその細胞質5SrRNAとクロロプラスト5SrRNAの塩基配列を決定し、それを比較することによって三大藻類界間のクロロプラストが単一起源か複数起源か、これを明らかにすることにある。 その結果、全生物界における生物の系統関係、とりわけ藻類とクロロプラストについては次のようになった。真核生物の中では紅藻類がもっとも原始的である。その後、緑藻類、褐藻類の順序で出現している。緑藻類の中で、従来形態学的考察からもっとも原始的とされていたマミヱラの5SrRNAは、この分子そのものももっとも原始的な緑藻類の特徴をもち、系統樹上の分岐も、緑藻類で一番早い事が判明した。 さらにこれら緑藻や紅藻のクロロプラスト、緑藻のミトコンドリア5SrRNAは、原核生物型の5SrRNAであり、シアノバクテリアやクロロキシバクテリアのそれに近い分岐となる。細胞質5SrRNAの結果と合せて考察すると、クロロプラストの起源は細胞内共生説に都合のよい結果である。しかもその細胞内共生は単に一回ではなく、複数回であった可能性を強く暗示している。
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