研究概要 |
大腸菌の細胞分裂開始の誘導機構を分子レベルで明らかにすることを目的として本研究を行った. 大腸菌においては, 細胞分裂の開始には染色体DNA複製が終了することが必要である. 同様に, ある種のプラスミドを持つ大腸菌においては, 染色体DNAに加えて, プラスミドDNAの複製が行われることが必要である. F因子の場合, この調節はF因子上の2つの遺伝子, letAとletDにより調節されている. 本年度は, この調節に宿主大腸菌の新しい遺伝子tdiFが関与していることを見いだしたので報告する. 1.F因子の細胞分裂抑制(LetD)蛋白質の標的蛋白質を同定するため, F因子letA変異株に耐性を示し(Tdi表現型) 同時に増殖が温度感受性(Ts表現型)となる変異株を分離した. 分離頻度から計算して, 分離可能な全ての遺伝子の変異株が分離されたと考えられる. 得られた変異は, 相補し得る組み換えプラスミドにより, groES, groEL, tdiFの3群に分類された. 2.tdiF変異のTs表現型を相補するDNA断片を得, この断片の制限酵素地図を作製し, 小原により作製された大腸菌染色体DNA制限酵素地図(Koharaet al.Cell 495(1987))と比較することにより, このDNAの断片が大腸菌染色体上約48.5分に位置することを見いだした. 3.tdiF変異と, 47.3分に位置するada及びalkB遺伝子と置換したカナマイシン(Km)遺伝子との連関性を形質導入により検討し, (1)Tdi^-とTsの両表現型が1つの変異により引き起こされていること, (2)tdiF遺伝子は47〜48分近傍に存在することを明らかにした. この結果, tdiF遺伝子はこれまで報告されていない新しい遺伝子である事が明かとなった. 4.相補性試験により, letDとtdiF遺伝子間に互いに機能を打ち消しあう遺伝子量効果が存在することを見いだした. この結果は, tdiF遺伝子産物がLetD蛋白質の直接の標的である可能性を示唆する.
|