本研究では、生物の生活にとって極限状態とも言われている高山の環境下で、そこに生育する常緑多年性植物がどのようにその環境に適応しているかを、生理生態学的に明らかにすることが目的であった。 本年度の研究は主として (1) 環境調査:気象観測・光条件観測 (2) 生理学的特性:光合成・呼吸・物質転流・種子発芽の二項目を柱として行った。 環境調査では、本科学研究費によりまとめられた2年間のデータを加え約10年間の気象データの蓄積ができたため、数年にわたる高山植物の成長経過を気象条件と関係づけて理解検討することができた。 生理学的特性では光合成能力の特徴的な季節変化が分かり、これによる生産物の蓄積消費の過程も数種の植物において明らかとなった。また草本植物限界で優占種となっているフジハタザオはここでは唯付一の常緑多年生植物であるが、この種において、常緑葉に貯蔵物質を貯えることにより厳しい冬期を過ごし、高山での春季にいち早く光合成を開始するという適応性が証明された。 また他種との比較研究として、フジハタザオと生活型の上で類似しているヤマホタルブクロ(落葉性多年性草本植物)をもちいて、常緑葉の生理生態学的意義を検討した。両者について生長解析をおこなったが、これと同時に繁殖特性・光合成特性の検討もおこなった。その結果フジハタザオは常緑葉を持つことによって、ヤマホタルブクロのハビタートよりさらに苛酷な条件下に生育できることが明らかになった。すなわち常緑多年生草本植物であるフジハタザオの個体群が、高山の草本植物限界で生育するためには、常緑葉の存在が必要不可欠であった。
|