富士山の森林限界は平均して標高2500mに位置している。森林限界の先端は落葉矮生低木からなり、その上部には高山草原が広がっている。本研究では、生物の生活にとって極限状態とも言われている高山の環境下で、そこに生育する常緑多年生植物がどのようにその環境に適応しているかを、生理生態学的に明らかにすることが目的であった。 調査地は富士山南東斜面の宝永山火口付近(標高2450m)の高山帯であり、そこは280年前の宝永の噴火(1707)により完全に裸地化し、現在植生の回復が進行している場所である。研究は主として(1)環境調査:気象観測・光条件観則(2)植物群落調査:群落の分布・群落構造・現存量・埋土種子分布(3)生理学的特性:光合成・呼吸・物質転流・種子発芽の三項目を柱として行った。 環境調査では、本科学研究費によりまとめられた2年間のデータを加え約10年間の気象データの蓄積ができたため、数年にわたる高山植物の生長経過を気象条件と関係づけて理解検討することができた。植物群落調査では高山の裸地に常緑多年生草本植物であるフジハタザオが生育を開始ししてから安定した群落になるまでの遷移の過程を明らかにした。さらにフジハタザオおよびオンタデについて、その分布様式と多様性を数式を利用することにより説明した。生理学的特性では光合成能力の特徴的な季節変化が分かり、これによる生産物の蓄積消費の過程も数種の植物において明らかとなった。また草本植物限界で優占種となっているフジハタザオはここでは唯付一の常緑多年生植物であるが、この種において常緑葉に貯蔵物質を貯えることにより厳しい冬期を過ごし、高山での春季にいち早く光合成を開始するという適応性が証明された。
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