熱帯多雨林の更新は高木が倒れることによるギャップの形成を契機とする部分的更新を介してなされることが、近年の研究によって次第に明らかにされつつある。シロアリは熱帯及び亜熱帯に広く分布し、熱帯林内の高木の幹の髄の枯死組織を食べ、幹に空洞部分を形成することを介して、高木が倒れる時期をはやめ、ギャップの形成や森林の更新に少なからぬ影響を及ぼしていると考えられている。本研究は亜熱帯気候下にある西表島において、そこに生息するシロアリの種組成と食性を解明し、シロアリが樹木の枯死とどのようなかかわりを持ち、森林の更新過程に及ぼすシロアリの役割を明らかにすることを目ざしている。 西表島の森林内から3科9属9種のシロアリが見られ、そのうちの一種、Procapritermes spは日本から新しく記録されたものである。9種のうち、2種は土を、残りの7種は枯死植物(材)を主に食べる。この7種のうち生木の枯死部分に侵入するのはダイコクシロアリ・コウシュンシロアリ・カタンシロアリ・イエシロアリ・タカサゴシロアリであった。コウシュンシロアリは生きた組織にまで侵入するのが観察された。西表島を含めて沖縄では台風が毎年のように襲来し多くの樹木を倒す。これらの倒木の中には髄の部分にイエシロアリやコウシュンシロアリが入り込んでいるものが観察されたが、樹木が倒れることに及ぼすシロアリの役割を定量的に示すにはいたらなかった。コンシュンシロアリが多く生息するマングロ-ブに定点調査区を設けて、樹木・枝の枯死過程を記録し、それとシロアリの営巣・摂食活動のかかわりを調査継続中であるが今のところ、マングロ-ブ植物の枯死過程にシロアリの摂食活動が直接関与しているとの証拠は得られていない。またシロアリの摂餌戦略を解明する一環としてヤマトシロアリの消化管に共生する原生動物群集の研究を行った。
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