研究概要 |
本研究の最終年度に当たり、これまでの動力学的な検討等の結果から存在が示唆された異種藻類間相互作用物質の分離に主眼を置いて検討した。 中海から分離したCymbella sp.の培養上澄液には、同じく中海から分離したCyclotella nanaに対する増殖抑制物質が存在する。有機溶媒(n-ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチルおよびn-ブタノ-ル)での逐次抽出法、SEP-PAKカ-トリッジカラム法および陰・陽イオン交換樹脂分画法を用いた培養上澄液からの本活性物質の分離は、いずれも培地成分の除去が不十分であった。そのため、Cymbella sp.藻体からの本活性物質の分離法を再度検討した。藻体のアセトン洗浄液中には活性が認められたのに対して、洗浄後の藻体のアルミナ粉末磨砕・超音波破壊液中には活性が認められなかったので、前者を次精製操作のSephadex G-100およびBio-Gel P-2カラム法の試料として用いることとした。その結果、溶出位置から分子量約200と推定される活性画分を得た。本物質の11種藻類(珪藻5種、緑藻4類,藍藻2種)に対する増殖抑制作用は、珪藻類に特異的でかつ細胞の分裂阻害に基づく一時的なものと考えられた。また本物質の大量生産法としてのκ-カラギ-ナン固定化Cymbella sp.の培養では活性が認められなかったが、同時に行ったNavicula sp.のそれでは強い活性が認められた。前者については更に検討を要するが,藻体の固定化は相互作用物質の大量生産法として有用と思われた。 残念ながら,Cymbella sp.の産生する藻類増殖抑制物質の構造決定まで至っておらず,その作用機構の解明と環境科学的な利用については今後の課題とした。
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