本研究の実験対照地域は、都市部、マングロ-ブ林そしてブナ林であるが、本年度は特にブナ林におけるコケ植物の繁殖様式に焦点をあてて実験観察がなされた。以下はその成果の一部である。 遷移段階の異なるブナ林(広島県比婆山連峰)の8ヶ所(うち1つはヒノキ植林)のスタンドに設置したプロット(石片および樹幹片-ブナ、クリ、ミズナラ、クマシデ、ヤマモミヅ、コナラ、ウリハダカエデ、ヒノキ)で、本年度3回(1989年4月、7月、10月)の観察がなされた。 その結果、右片については、遷移初期と思われる段階では、コケ植物の着生は全くみられなかった。やや遷移の進んだミズナラ-ブナの混交林ではわずかにMetzgeria(苔類)の侵入があった。さらに遷移が進んだ林ではコケ植物の着生が増していく。極相林に近いプロットでは石片にも50%以上それをおおう程のコケ群落が発達してくる。樹幹片については、伐採跡地を除くすべてのプロットで、コケ植物の着生をみることができた。全体としては、遷移の段階の進んだ森林内ほどコケ植物の繁殖およびその配偶体群落の発達がよいことになる。また樹幹部に設置した永久コ-ドラ-ト(10×10cm^2)の発達は極めて遅い。それに対して朽木上のコケ群落の発達は顕著であった。なお、ブナ林でみられたこれらのコケ植物の現地での種の同定は極めて困難であるため現在のところ正確な種名は不明である。 一方、これまで行なってきたストレス環境の都市とマングロ-ブ林での観察結果とも対比してコケ植物の繁殖戦略について検討中である。
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