本研究の目的の一つは、野外に実験地を設け、そこでのコケ植物の繁殖様式の法則性を見つけだすことである。その対照実験地域は、都市部、マングロ-ブ林そしてブナ林である。 都市部については、大学構内ですでに科研費交付以前からなされてきたものである。その結果、都市型コケ植物の特徴として、胞子体形成が容易であること、無形芽形式の著しいコケ植物が都市環境によく適応していることなどを明らかにした。 マングロ-ブで林内のコケ植物の繁殖特性についての検討も、本科研費交付以前より実施してきたものであるが、とくに現地でのコケ植物(着生が多い)の生態および分布の実体について数々の知見を得た。その結果の一部は、マングロ-ブ林特有のコケ植物はみられず、それらの着生コケ植物は、ほとんどがマングロ-ブ林特有のコケ植物はみられず、それらの着生コケ植物は、ほとんでがマング林周辺の低地林に普通にみられるものであった。また、それらの着生種を他の森林のものと比較すると、植物体が小形で、樹皮に圧着する生育型をもち、耐乾性、耐塩性についてより優れている種が多かった。これらの種は、胞子体を付けやすい上、無性芽も比較的生じやすいといった繁殖に有利な特性をもっていたが、このことは都市部のコケ植物と共通する面である。雌雄性については雌雄異体より同株の方が多かった。 ブナ林においては、遷移段階の異なる森林(一部は伐採地、ヒノキ植林)での8プロットにおいて、石片および樹幹片で継続的に実験観察を行なってきた。その結果、遷移段階の初期の伐採地では、コケ植物の定着は、繁殖はほとんどみられないのに対して、遷移の進んだ極相林あるいはそれに近いブナ林では、コケ植物群落の発達が著しいことが判明した。なお、ブナ林などでの野外観察実験を裏づけるべき培養実験の成果はみるべきものがなかった。今後の問題である。
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