前年度にひきつづき、富栄養湖の代表として長野県諏訪湖と貧栄養湖の代表として東京都奥多摩湖からプランクトン生物各グループをサイズ別に採取して、そのC、N、P含量を測定した。その結果、分析時ごとの変動はあるものの次のような傾向が認められた。諏訪湖では全体的に高いN/CとP/C比が記録されたが、N/Cはサイズが大きいほど、P/Cはサイズが小さいほど高い値を示した。輪虫類を主とした動物プランクトン分画では、両比とも高い値であった。奥多摩湖では両比ともプランクトンのサイズが小さいほど高い傾向であった。動物プランクトンの枝角類Daphniaとコペポーダ類はともに全セストンの2倍近く高い、N/C比と4倍近いP/C比をもっていた。生物体に含まれるNとPの移行を調べるため、実験室でN/C、P/Cをそれぞれ0.2、0.03程度に調製した緑藻クラミドモナスを与え飼育したDaphnia similisの体成分でのこの比は、餌の濃度によって異なり、予想とはちがって、高濃度の餌を与えた場合にN/C比が低くなった。これは餌条件が良好な場合にはプランクトン体に脂質が蓄積するためと考えられる。N/C又はP/Cの低い餌を与えた場合、餌密度が低いと成長が低下したが、密度が高い場合には成長は低下せず、動物体のN/CとP/Cはそれぞれ、0.15および0.023以下にはならなかった。これらのことから動物プランクトン体のN/C、P/Cはそれらの値単独では栄養状態の指標とはなり得ず、餌料中の元素比、餌濃度、個体の成長などの条件を総合的に考慮したうえでN、Pの移行過程を解析しなければならないことがわかった。水界食物連鎖系で重要な位置を占めることが確認されはじめた浮遊細菌のN、P含量測定を試みたが、自然水中の細胞は径0.4〜0.7μmと非常に小型であるため、現存量の測定にあたっての分析誤差の検討、非生物粒子の除去等の問題があることがわかった。
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