当研究室では、近年、蘚苔植物の蘚類、苔類、ツノゴム類よりそれぞれ数種のカルスを分離し安定な液体培養系を確立している。それらの性質を調べたところ高等植物とは異なる特性がいくつか見いだされた。そのなかの一つに、母植物では他の植物と同様に窒素源として硝酸塩を利用できるにも拘らず得られたカルス細胞のうち多くの種では、窒素源としてアンモニウル塩は利用できるが硝酸塩は利用できないという性質がある。そこで、これらのカルスのうちで再分化能を有している蘚類フナガタミズゴケSphagnum imbricatum細胞を用いてカルスから配偶体への再分化に伴う無機窒素代謝系諸酵素の活性変動を調べることにより植物細胞の分化過程と窒素代謝系との関連を調べた。 光独立栄養条件下で液体培養し、窒素源をアンモニウム塩から硝酸塩に変えることにより、カルス細胞から配偶体へと同調的に再分化させることが可能となった。そこで液体培養によって得られる充分量の培養細胞を用いて、in vitroでの硝酸環元酵素NaR、グルタミン合成酵素GS、グルタミン酸生成酵素GOGAT、グルタミン酸脱水素酵素GDH、の活性を測定した。各酵素の反応の至適条件を調べたところ、GDH活性は助酵素の依在性と至適pHにおいて他の植物と異なっていた。決定された至適条件を用いて、カルス細胞と再分化植物での各酵素のin vitro活性を調べたところ、GSとGOGAT活性は両者で差は見られなかった。一方、GDH活性はカルス細胞では高い活性が得られたが再分化植物では全く検出できなかった。
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