研究概要 |
緑色植物の光化学系I(PSI)のアンテナ色素系について解析を進め, 以下のような結果を得た. (1)ホウレン草葉緑体, 及びPSI亜粒子についてピコ秒領域時間分解蛍光スペクシルの測定を行い, 室温では, 従来まったく知られていなかった三種類の短寿命の蛍光成分(F688, F698, F705)が存在し, PSIの効率良いアンテナとして機能している事を見い出した. 液体窒素温度では, 上記の三種の新成分をはじめ, 既知のF735, 更に数種の蛍光成分を見いだした. これらの事実はPSIクロロフィルからの発光は温度条件に依存せずに一定の成分から起こっていて, 温度により単に各成分の蛍光収率が変化することを端的に示している. これは従来の考え方-PSI蛍光は低温でのみ観察される-を根底からくつがえすものである. (2)蛍光成分の同定について, 時間分解蛍光スペクトル法と, 固定波長での減衰曲線からコンボリューションにより成分を同定する, いわゆるグローバル法との比較を行なった. 後者による場合, 蛍光の減衰関数として指数関数を仮定した. 得られた成分スペクトルは, 前者による場合と著しく異なっていた. この原因として, 指数関数的な減衰が考えられる. 我々の測定から示唆されるように, この仮定は必ずしも妥当ではなく, 従って現在行なわれている多くの解析の意義が小さい事となり, 光合成アンテナ系での解析方法を再検討する必要があることが示唆された. (3)色素系の新しい解析方法として直線二色性を導入し, 色素分子の配向に関する情報を得られるようになった. 特にPSIについては, 長波長成分の遷移モーメントがムラコイド膜により無直に配向している事が示唆された. 実測された蛍光寿命と, 遷移モーメントの方向から色素分子間の距離が求められ, 従って三次元構造が推測しうるようになった. (4)比較のためPSIIの解析を行い, 色素間相互作用に差がある事が判明した.
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