研究概要 |
前年度の研究で明らかにした細胞周期依存的な発生のメカニズムをさらに解析するため、飢餓処理後に粘菌細胞(A×-2細胞)の細胞周期は一体どこまで進行して増殖サイクルから分化形質発現の方向に移行するのかを知る必要が生じた。そこで、細胞周期内の種々の位置にある細胞について飢餓処理後の細胞数の変化、および核DNA合成(S期)の有無とその時期を検討した。TO-,T0.5-,T1-細胞(培養温度を11.5℃から22℃にシフトしてからそれぞれ0時間、0.5時間、1時間後の細胞で同調的に増殖する細胞)は数の増加とそれに伴う核DNA合成を示すが、T3-,T5-,T7細胞では細胞数の増加および核DNA合成はほとんど認められなかった。したがって、A×-2細胞はG_2期の特定位置(おそらく、T7-細胞の細胞周期内位置)で増殖サイクルから離脱し分化状態に移行する可能性が高い。そこで、これを確かめるために、T1細胞を飢餓処理して6時間目の細胞(T1+6-細胞と略称)がT7-細胞と同様な性質を示すかどうかについて検討した。その結果、T1+6細胞とT7-細胞とを混合して発生させると、移動体形成に際しての両者間の細胞選別は認められず、両者は移動体内で均等な分布を示すことがわかった。また、T1+6-細胞はT1-細胞と混合培養するとT7-細胞がそうであったように移動体後部の予定胞子細胞域に選別された。したがって、T1+6-細胞とT7-細胞はほとんど同質であり、T1-細胞は細胞外における栄養源の有無にかかわりなく、T7-細胞の細胞周期内位置まで細胞周期を進行させることができるといえる。このことはまた、細胞周期内には上述のような増殖と分化との切り換え点(PS点)が存在し、このPS点に至るまでのタイミングの差が細胞集団内での個々の細胞の位置どりを規定し、ひいては細胞の分化に重要な意味をもつことを示唆している。
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