研究概要 |
ニワトリ胚の小腸や尿嚢内胚葉を前胃間充織と再結合して培養すると, 前胃腺構造が誘導されるが, 前胃に特徴的な胚期ペプシノゲンが発現しない. すなわち, 細胞分化と形態形成がカップルしない系が得られた. そこで, ペプシノゲンの誘導が進行しない理由について研究することにした. まず, ニワトリ胚期ペプシノゲンを精製し, その抗体を得た. 一方, 前胃より抽出したポリA+RNAを出発材料として, cDNAライブラリーを作製し, 抗体で検索することにより, cDNAクローンを単離した. さらに, 胚期ペプシノゲンcDNAの全長を含むクローンを得て, その全塩基配列を決定した. このcDNAをプローブとして, 正常発生におけるペプシノゲンmRNAの発現をノザンブロット法により解析したところ, ペプシノゲン蛋白の発現と一致する発現の消長を得た. 次に, 食道や砂嚢内胚葉と前胃間充織との再結合片でしらべたところ, ペプシノゲンmRNAの転写が誘導されていた. しかし, 小腸や尿嚢内胚葉と前胃間充織の組合せでは, mRNAは検出できなかった. 以上の結果は, 前胃間充織は, 食道・砂嚢の内胚葉に対してはmRNAの転写を誘導するのに, 小腸・尿嚢の内胚葉に対してはmRNAすら転写させ得ないことを示している. ラット成体膀胱上皮を胎児尿生殖洞間充織と再結合して培養すると, 前立腺構造が誘導されるが, この腺構造は, 成体膀胱上皮に特異的な蛋白質や酵素を失い, 前立腺に特異的な蛋白質や酵素を発現する. しかし, 成体前立腺に特異的な別の抗原, たとえば, アンドロゲン依存性腹側前立腺上皮特異抗原などは発現しえない. この理由としては, 正常成体前立腺上皮に発現するアンドロゲンレセプターが, 実験系である膀胱上皮由来の前立腺様上皮に欠損しているためであると考えられる.
|