本研究により、これまで常識とされてきた形態形成と細胞分化のカップリングを否定する現象が見出され、両者を指導する機構を分けて考えることがはじめて可能になった。 I.細胞分化-形態形成アンカプリング系の開発 a系:ニワトリ胚尿嚢上皮/ニワトリ胚前胃間充識……この系で誘導された前胃腺構造はペプシノゲン抗原を生産しないし、ペプシノゲンmRNAも転写していない。 b系:ラット成体膀胱上皮/ラット胎児尿生殖洞間充識……誘導された前立腺構造は成体前立腺に特異的なあるタンパクを発現し得ない。 c系:アンドロゲンレセプター欠如マウス胎児尿生殖洞上皮/正常ラット胎児尿生殖洞間充識……この系で誘導された前立腺構造は、アンドロゲンレセプターも、前立腺特異的抗原のいくつかも発現していない。 II.細胞分化-形態形成アンカプリング機構の追求(特にa系を用いて) (i)正常前胃腺形成におけるペプシノゲン発現とサイトケラチン……正常前胃腺形成の際、上皮サイトケラチンの消滅とペプシノゲン出現とがカップルしていることを発見した。 (ii)a系におけるサイトケラチンの発現……ペプシノゲンに合成をおこなわない尿嚢上皮は、前胃間充識の誘導により、異型的な前胃腺を形成した後もサイトケラチンの低下消滅は全くみられなかった。 これらの発見は細胞の最終分化をコントロールする機構の解明に関わるものとして注目に価いする。上皮サイトケラチンは、上皮細胞自身の形態発現に直接かかわっている一方、上皮細胞の分化調節の鍵をにぎっているものと考えられる。
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