動物の発生初期胚は細胞当り、大腸菌の数千倍、一般の真核生物の数百倍と現存の細胞中最高のDNA複製速度を持つが、発生後期ではその十分の一から百分の一に低下する。これは胚発生特有のDNA複製の調節が働いていることを示唆する。本研究ではこの胚発生におけるDNA複製速度の発生レベルでの調節について主にウニ胚を用いて染色体DNA上のDNA複製開始部位とDNA複製装置の観点から解析した。また、発生レベルでのDNA複製調節の意義を他の細胞増殖系(哺乳動物のホルモン依存の細胞増殖、同調増殖している細胞性粘菌細胞)と比較することにより検討した。発生の各時期にあるウニ胚よりDNAを単離し電子顕微鏡によりDNA複製を解析した結果、DNA複製単位はいわゆる"複製目(replication eyes)"として、また、DNA複製開始部位は"複製目"の中点として観察された。発生初期胚では"複製目"は12キロ塩基長へだてて4-5個の群として染色体DNAに存在するのに対して、発生後期では単一の"複製目"が30キロ塩基長以上離れて散在することを思いだした。このことより、ウニ胚では発生の時期に依存して染色体上のDNA複製開始部位数が変動することが判明し、この複製開始点退かずによりDNA複製速度が調節されていることを解明した。また、DNA複製に参加しているDNA複製装置の数が発生初期胚では後期胚に比べかなり多く、この数が発生の時期に依在して変動することを見いだした。しかし、このDNA複製に参加するDNA複製装置の数は単に細胞中に存在する装置の数ではなく、この装置を"始動"にする因子が存在し、この因子の数によりDNA複製速度が発生レベルで調節されている可能性を明らかにした。
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