研究概要 |
本研究の目的は、ゴカイの巨大ヘモグロビン(Hb)の分子構築の特徴と分子進化の特性を明らかにすることである。私はこれまで、ゴカイの1種イトメのHbから4種の基本鎖を単離し、それらのアミノ酸配列を決定している。そして、「イトメのHbは2種類のサブユニット(IIA、IIB、IICがSS結合した3量体および単量体工鎖)が各48個会合して1分子を形成している」 とする"192鎖モデル"を提唱している(Suzuki & Gotoh,(1986)J.Mol.Biol.190,119-123)。 1987年から継続した仕事で、イトメHb中にあるSS結合の場所を決定した。先ず、各鎖のシステイン残基が全てSS結合していることことが明らかになった。環形動物の巨大Hbが他の動物のHbと違う特徴としてシステイン残基を含むのは、システイン残基の全てがSS結合することによって安定化されており、突然変異を受けにくかったためと考えられる。また、このSS結合は中央のエクソンに対応する領域にはなく、両端のエクソン領域に偏在している。中央のエクソン領域はそれだけで可逆的な酸素結合能を持つことが知られており、その部分を避けて、両端のエクソン領域のみにSS結合が限定されていることは、分子構築の観点興味深い。4種の基本鎖は全てその内部に1本のSS結合を持ち、"三量体"はIIA-IIC-IIBの様にIICを中心にSS結合していることが明らかになった。このことは、"192鎖モデル"によれば、イトメHb1分子内に288本のSS結合が存在することを示している。一方、画像処理を含む散乱透過型電子顕微鏡によってイトメHbの姿が鮮明に映し出された。その形状は6個のサブマルチプルが環状に並びそれが二重に重なっていて、そのサイズは径が28.4nm高さが18.2nmである。そして、中心部には8.8nmのホールがあいている。更に、このホール内に細いフィラメントが認められた。このフィラメントを除けば、電顕像は全て"192モデル"で説明できる。
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