軟体動物のもつミオグロビンのアミノ酸配列(一次構造)を知るために腹足綱前鰓類ミミガイ科のマダカアワビ及びトコブシは口部周囲の筋肉からミオグロビンを単離した。これらのミオグロビンはいずれもその分子量39KDaと既知の軟体動物のミオグロビンの2倍量を示し、ふたつのドメインを持っていると推定された。これは遺伝子重複の結果を生じたものと考えられる。このうちトコブシミオグロビンはそのヘム含量が40000g当り1モルと測定されたことから、ひとつのドメインはヘム結合能を失っていると判断された。またトコブシミオグロビンのリシルエンドペプチダ-ゼ消化によるペプチドは23本回収され、その部分アミノ酸配列が決定されたが、そのうち4本のペプチドが同じ軟体動物エガイのヘモグロビンと40〜60%程度の相同性があったが、それ以外はあまり類似性をもたず今まで知られている軟体動物からのヘモグロビン、ミオグロビンとはかなり置換が進んでいると推定された。 一方、同じ軟体動物腹足綱に属するトゲアメフラシ口球からもミオグロビンを単離・精製することができたのでその全アミノ酸配列を決定した。このミオグロビンは146残基のアミノ酸で構成されており、近縁のアメフラシ類及びタツナミガイからのミオグロビンとはその配列はかなり(73〜84%の一致率)ホモロジ-が高かったが、二量体ミオグロビンであるフトヘナタリガイミオグロビンとはかなり違っていた。また、これらのアミノ酸残基の置換の量をもとに系統樹を作成した。トゲアメフラシはミオグロビンのアミノ酸配列からはアメフラシ類よりもタツナミガイにより近いという結果も得られた。
|