無背椎動物のもつミオグロビンの一次構造の解明の研究として軟体動物のミオグロビンに注目して調べた。今回、我々はマダカアワビ、トコブシ及びトゲアメフラシのミオグロビンを調べた。その結果、マダカアワビとトコブシのミオグロビンは分子量39kDaという特異的な分子であり、このような分子はウマカイチュウミオグロビンでのみ存在が知られているだけであった。更にトコブシミオグロビンのリシルエンドペプチダ-ゼ消化によるペプチドのうち23本を単離しその配列を決定した。又この分子のヘム含量は40000g当り1モルで期待した値の半分であること、及び単離された23本のペプチド間に似た配列をもつものがないことなどから、トコブシミオグロビンは遺伝子重複の結果ふたつのドメインをもったが一方のドメインはヘム結合能を失った特異的な分子構造をもつと推定された。一方、トゲアメフラシミオグロビンは通常型ミオグロビンでありその全アミノ酸配列(146残基)を決定できた。このミオグロビンの配列と既知軟体動物のミオグロビンのそれとを比較したところ単量体ミオグロビンとは73〜84%の一致率だったが二量体ミオグロビンとは22〜26%の一致率とほとんど似ていないこと、トゲアメフラシミオグロビンは軟体動物単量体ミオグロビンと同じように遠位ヒスチジンがバリンに置換しており、分子も不安定であった。また分子系統樹を作成したところここでのデ-タからはトゲアメフラシはアメフラシ類よりもタツナミガイに近いという興味ある結果も得られた。またこの研究の途中同じ軟体動物ヒザラガイロ部にもミオグロビンが存在していることが判明した。今後このミオグロビンのアミノ酸配列を調べることによりより詳しい内容が明らかになるものと思われる。
|