研究概要 |
本研究は, 昆虫において, 触角にある湿度受容器で検出された湿度情報が脳内のどこで, どのように情報処理されて, 湿度定位をするかを明らかにするを目的としている. 本年度はおもにワモンゴキブリを用いて, この受容器の終末する部域を明らかにし, 第2次神経繊維の湿度刺激に対する電気的応答を調べた. コバルト・リジン染色法を用いて触角神経から染色した. 触角神経の大部分は中大脳に入り, 一部の太い繊維は中大脳に入らず, 縦連合を下る. この太い繊維の一部は縦連合の途中で終末するが, 他の一部は食道下神経節まで伸びる. これらの中大脳に入らない神経繊維群が染色される場合には, 細胞体も染色されて脳内に見られる事から, この繊維群は運動神経繊維と思われる. 中大脳に入った神経繊維は, それぞれ束になって糸球体に入る. 中大脳には百数十個の糸球体があるが, 各糸球体が一様に染色される事はなく, 上下に位置する糸球体は濃く, 中央部のものは薄く染まる傾向があり, それぞれの糸球体を形成する繊維の数と太さに差があるためと思われる. また, 左右の中大脳間をつなぐ繊維群も染色された. 中大脳にガラス微小電極を刺入して湿度刺激に対する電気的応答を調べた. 湿度受容器の軸策も嗅受容器の軸策と同様に中大脳に入るが, 電気的応答はごく狭い部域からしか記録できない. これは中大脳のごく限られた狭い部域の糸球体にのみ終末している事を示唆している. また, インパルス応答の時間経過は同じ刺激に対する受容器のインパルス応答の時間経過とは明らかに異なり, 記録された応答は中大脳の神経繊維からのものである事を示している. 刺激応答関係は大きく3種類に分けることができる. 1.湿度が高いほどインパルス応答が大きくなるもの. 2.湿度が低いほどインパルス応答が大きくなるもの. 3.中程度の湿度の時にインパルス応答が最大になり, 低湿度でも高湿度でも応答が減少するもの.
|