研究概要 |
鳥取市, 奄美大島・沖縄島および対馬で蛾類の採集・調査を行ない, 多数の資料を得ることができた. 採集した蛾は標本作製後, ドイツ型標本箱に整理収納し, また, 卵を採集できたものは飼育を行なっている. なお, 対馬のものは63年3月に調査を行なったので, 現在整理中である. 奄美大島の湯湾岳の暖帯林でカラスヨトウ属(ヤガ科)を2種発見した. この属はユーラシアの温帯域に広く分布するもので, 今まで南西諸島からは沖縄島北部特産種クロシマカラスヨトウが知られていたにすぎない. そのうちの1種はヨーロッパから日本まで広く分布するカラスヨトウに近縁の別種で, 島嶼による隔離によって分化・特化したものと考えられるが, 原始的な形態も保有しており, この種に関する論文を準備し投稿中である. また, もう1種はヒマラヤから中国を経て日本の本州南部に続く暖帯林に生息するオオシマカラスヨトウにたいへんよく似たもので, 別種と考えられるものだが, 日本本土の標本を詳細に比較検討した結果, 2種が混同されていたことが明らかとなり, 奄美大島の種は東京の高尾山付近まで日本の南岸に連続的に分布することが判明した. 生息場所は, どうも真のオオシマカラスが二次林的環境, 奄美大島のものが照葉樹林にいるようである. この2種の関係は幼生期, 環境も含めて63年度にも研究を発展させ, 発表する予定である. 以上のように, この研究では広範囲に渡って比較する資料が必要である. 62年度末と63年度夏に採集を計画している対馬は朝鮮半島の影響が強く, 同じ暖温帯の辺縁部といっても, 日本本土や南西諸島とは, その起源が異なるものが多いと思われ, さらに興味深い発見があることと期待される. これと合せて, 逐次本州・四国・九州での調査を行ない, 加えて, 海外学術調査で得られたヒマラヤや東南アジアの資料も比較・検討すれば, より精度の高い考察が可能となる.
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