本年度は、長野県乗鞍周辺、糸魚川市小滝、および対馬で採集調査を行い、大阪府立大学昆虫学研究室に所蔵されている蛾類標本を検討した。採集した蛾は、標本を作製後、ドイツ型標本箱に整理収納した。また、卵や幼虫を採取できたものは、飼育を行い、成虫を確認している。前年度に収集した資料も含め、暖帯林に固有な蛾類や移動性のある蛾類を中心に研究を進めた。 奄美大島から新種ユワンカラスヨトウを発表した。近縁のカラスヨトウはユーラシアの広域分布種で、暖帯林の島に遺存的に残された固有種と考えられる。また、同時に発見したシマカラスヨトウの第3の種は、その後の調査で、東京付近までの暖帯林に広く生息していることが分かり、近縁の2種を含めて分類の再検討を発表するため準備中である。 ヒメクビグロクチバには、3種が含まれていることが最近分かった。このうちナニワクビグロクチバが照葉樹林にのみ生息することが九州大学の所蔵標本を検討して明らかになった。近縁種ヒメクビグロクチバは落葉樹林を中心に生息するが、一部で混生しているようである。 日本のような島国に生息するものの起源を考える時、その侵入経路が問題となる。東南アジアに広く分布するヘリボシキシタクチバは稀に日本でも採集されるが、今回、糸魚川で採集することができた。梅雨前線と低気圧の発生源を調べると、中国大陸から直接侵入してくる可能性があり、従来の記録にも日本海側に集中している。また、ホシホウジャクの集団移動を報告し、この現象も台風と関係があることを示唆した。 これから結果を踏まえ、奄美諸島を再度調査し、資料や結果を整理して本研究のまとめを行なう。また、平成元年度には文部省の海外学術研究で、台湾の高山帯の調査を行なうことになっているので、その成果も取り入れながら、研究を進めようと考えている。
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