1.暖帯林の北限に当たる本州中部、朝鮮半島との関係で山陰地方と対馬、および琉球列島を重点的に調査した。また、大阪府立大学と九州大学に所蔵された蛾類標本を調査した。 2.ヒマラヤ系の蛾類は暖帯林に関係するものが多く、分布パタ-ンを解析するとともに、分布の中心がどこにあるかを予想し、日本にいるものの起源と種分化を検討した。 3.この研究で取り上げた蛾類で、分類学的検討をし、国内の分布を明らかにしたものに、ヤガ科のカラスヨトウ属とヒメクビグロクチバ群、マダラガ科のオキナワルリチラシがある。これらは、あまり移動力がなく、種分化や亜種の分化を起こしており、国内外の近縁種との系統関係も明らかになってきた。新種として発表したユワンカラスヨトウは奄美大島だけに分布し、最近縁種はユ-ラシアの広域分布種で、しかも奄美大島には分布していないので、遺存的に固有化したものと考えられる。ヒメクビグロクチバは冷温帯の落葉広葉樹林を中心に生息するが、近縁のナニワクビグロクチバは暖温帯の照葉樹林にだけ見られることを明らかにした。ただし、この群の各種の分布は一部重複する。オキナワルリチラシはヒマラヤから日本中部にかけて分布する典型的なヒマラヤ系の蛾で、亜種の分化が著しいことで知られている。琉球列島の島ごとの個体を詳細に比較したところ、従来の定説と異なる結論がえられたので発表し、奄美大島のものは新亜種として命名・記載した。 4.移動性の強い蛾類に関しても、興味深い知見が得られたので公表した。スズメガ科のホシホウジャクの移動中の大群を発見、また、東南アジアの広域分布種で稀に日本に飛来するヤガ科のヘリボシキシタクチバを日本海側で採集している。いずれも台風や低気圧の通過と関係していた。
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