表記研究の本年度の成果は以下のようである。1.新潟平野東方の五頭山地南部で、中期更新世の大量の土石流発生が山地のブロック隆起と対応したことを示す具体例を追加できた。つまり、山地西端の花崗岩に、約40〜50万年前の中期更新世に形成した、高度差100m以上の「古急崖」がみつかり、この急崖は、勾配60°〜80°で西に傾斜し、花崗岩からなる崖錐堆積がともなっている。この地点は、新潟堆積盆地と東方基盤山地の境界部にあたり、鮮新世以後の重直変位量が3000m以上に達する新発田-小出線が通過している。急崖の形成は断層活動によるもので、崖錐積物の形成時期は、五頭地域最大の土石流堆積物・五頭礫層の形成時期と一致している。 2.兵庫県六甲山地の大量の土石流発生期は、この地域の「高位段丘面形成期」で、約20万年前の中期更新世末にあたる。これは、五頭山地、櫛形山地などの40〜50万年前とくらべてかなり若い。これは土石流堆積物の風化度にも明瞭にあらわれており、五頭山地などにくらべて、六甲山地の土石流堆積物の風化度は弱い。このような土石流大量発生期のズレは、六甲山地の「成長」つまり大量の土石流を生産する山地高度をもった時代が、五頭山地や櫛形山地より遅れたことを意味するものと解釈できる。 3.滋賀県鈴鹿山地西麓で、中期更新世にはじまる鈴鹿山地の急激なブロック隆起運動と対応する、五頭山地とほぼ同時代とみられる大量の土石流堆積物が確認できた。 4.富山地域の北アルプス北縁山地でも、中期更新世のブロック隆起に対応した。大量の土石流堆積物が中部更新統の東福寺礫層中にみいだされた。
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