前年度につづき、岐阜県高山市および吉城郡上宝村、大野郡丹生川村の野外調査を行ない、化石の採集ならびに層位学的検討を行った。さらに化石群の比較検討のため、新潟県糸魚川市、青海町などの石灰岩、山口県秋吉台秋吉石灰岩などの化石も集めた。これらの室内研究は未だ完了していないが、多くの薄片や分離標本が得られ研究を行った。現在まで判明した主要点は下記の通りである。 主要な含化石層である一の谷層のサンゴ化石は、我が国の他地域のものとかなり様子を異にするが、中国大陸の中朝地塊と称される地域の化石相と類似する。ただし南中国との類縁性もあり、同じ古生物地理区とは考えにくい。また最下部のサンゴは南中国のみならず西ヨーロッパからウラル北部のものと類似する種を含んでいる。 小滝層のサンゴは量的に少ないが、一の谷層下部と類似るものが含まれていることが明らかになった。ただこの岩体は異地性岩体とみられ同じ時代の青海石灰岩とは化石内容が著しく異なることが改めて明確になった。 山口県秋吉台石灰岩の下部に含まれる凝灰岩は一の谷層下部と同一年代のものが知られていて興味深く、比較検討のため資料を採集した。その結果、一種だけ共通種が得られたが、これは同一古生物地理区のものというより、むしろ古生態学的な類似性に起因するらしいことが判明した。 小型有孔虫、紡錘虫化石の古生物地理的意義についてはその大要がまとまり飛騨バイオフェーシースと他との関係がおおむね明らかにすることができた。長年行ってきたカイメン化石の研究がまとまり出版されたが、諸外国の専門家からの反應が大であった。
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