研究概要 |
〔目的〕固着性二枚貝のうちマガキなど泥底上で自由生活をおくるものでは固着性という体制の制約がありながら泥底上で生活するため, さまざまな適応戦略をとっている. このようなカキ類では, 殻の内部にチョーク層とよばれる多孔質の構造やハニカム構造の部分をもつものが多い. 本研究は, これら殻内部の軽量構造の適応的意義を調べる. 〔成果〕1.これらのカキが実際に泥の上に浮いているかどうかを調べるため, 殻と肉体を含む全生体の比重と, 生息場所の泥の比重とを測定した結果カキの全比重はつねに周囲の泥より小さく, 泥に浮いていることがわかった. 同所に生活する潜没型の二枚貝は, 殻自体の組成はカキ類と同じであるのに, 全比重はほぼ周囲の泥と同じである. このことからカキ類の全比重が小さいのは殻内部の軽量構造のためであるといえる. このように, 殻の軽量構造はカキ類が泥底に適応する上で主要な役割を果しているといえる. 2.殻が極めて厚く重い新第三紀の化石カキ類について殻構造を検討したところ, 高密度のCaCO_3の結晶で形成されているように見える殻は, もとは多孔質のチョーク層を主とし, 空隙部は続成的に沈殿したCaCO_3で埋められたものであることがわかった. ヨーロッパのジュラ系に多いカキのGryphaea類は, これまでその重い殻の重量によって泥の上で安定な姿勢を保っていると信じられてきたが, これも, 電顕による観察の結果その主要部分がチョーク層と思われる軽量構造からなることがわかり, いずれも泥上に浮いていたものと結論される. この適応戦略を浮揚戦略とよびたい. 3.これら化石カキ類の生長線解析を行ない, 各生長段階における浮心の位置を調べた. 浮心はつねに殻縁部がほぼ水平を保つように移動しており, 殻が泥に浮いて安定な姿勢を保っているものであるという想定の正しいことが確かめられた.
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