主要な珪酸塩鉱物である輝石には、様々な拡散現象がみられる。そうした拡散現象を速度論的に解明するためには、拡散係数を知ることが是非とも必要である。しかし輝石の場合、拡散速度が遅い、ソルバス温度以下で二相に分かれてしまう、拡散対を実験的に作りにくい、と言った理由でこれまで信頼に足る拡散係数が実験的にほとんど得られてなかった。そこで今回、筆者らは天然の輝石中の離溶ラメラを拡散対として利用し、これを極微細領域の組成分析に効果的な分析電顕で測定する事により、この問題に取り組んだ。 昨年度はスケアガード産のトージャイトの単結晶を試料として、加熱後の組成プロファイルを分析電顕で測定し、それにソルバスの存在を考慮した拡散のシミュレーション法を適用して、Ca【.adlharw.】(Mg、Fe)の相互拡散係数を求める方法の確立を目指した。今年度はその確立した方法に則り試料を1000〜1200℃で種々の時間加熱処理して、拡散係数の温度依存性を明らかにする事を目指した。その結果、上記の温度領域における輝石のCa【.adlharw.】(Mg、Fe)相互拡散係数について、これまでにない精度で信頼に足る値を得る事が出来た。 今年度得られた結果をまとめると以下のようになる。1)拡散係数はピジョナイト中の方がオージャイト中よりも約一桁大きい。2)輝石中での拡散係数は従来考えられていたよりもかなり遅い。3)拡散係数をアーレニウスプロットすると、オージャイト、ピジョナイトともに、約1100℃に純正拡散と不純物拡散によると思われる折れ曲がりがある。(4)オージャイト中とピジョナイト中の拡散の活性化エネルギーは、1100℃以上ではそれぞれ、約120kcal/molと88kcal/molとなり、1100℃以下ではそれぞれ、約22kcal/molと18kcal/molとなる。輝石において直接拡散プロファイルから相互拡散係数を求めることが出来たのは今回が初めてである。
|