研究概要 |
今年度はとくに, 現在まで地質調査とサンプリングされた酸性岩と捕獲岩の岩石学的記載を基礎とし, EPMAによる鉱物分析と, 選ばれた37個の岩石について蛍光X線による全岩分析を行った. またICPによるREEを含む21の微量成分の分析法を標準化し, 現在分析を行っている. さらに, 地殻物質の変成脱水反応, 溶融反応, 物質移動などを実験的に明らかにするために, 溶液を出入させて合成できる熱水合成装置を購入し準備を進めている. 捕獲岩類と酸性岩37試料の全岩主成分組成の解析の結果, 次のような事実が得られた. (ここで捕獲岩類は, A:片麻岩などの変成組織をもつ高度変成岩類, B:変成組織をもたない中性〜塩基性の捕獲岩類, の2種類で, 弱変成のホルンフェルスは除く. )(1)SiO_2に対する主成分元素の変化図において, 日本の平均花崗岩類のトレンドと比較すると, 捕獲岩類はTiO_2, P_2O5, MnO, FeO^*(全鉄), MgOに富み, Na_2O, K_2O, Al_2O_3, CaOに乏しい. (2)AばかりでなくBの捕獲岩も組成変化の幅が広く, 火成岩のような滑らかな分化トレンドを示さない. (3)酸性岩は既に指摘されているように, FeO*, K_2Oに富みCaOに乏しい. (4)捕獲岩と酸性岩のほとんどすべてに石墨が存在し, とくにAとBの捕獲岩の一部では大量に濃集する. (1)の特徴は, 捕獲岩類は起源物質からアルカリ成分に富む最低溶融物がしぼり出された, 黒雲母, ザクロ石, Al_2SiO_5鉱物, スピネル, 燐灰石, 石墨, 斜長石, 石英などに富んだ難溶残滓であることを示す. 捕獲岩類の起源物質としては(4)の石墨の存在, (1)と(3)のCaOの枯渇を考えると, A, B両者とも泥質堆積岩が最も適当である. Bの捕獲岩は(2)の特徴からも酸性マグマの同源的早期晶出物とは考えにくい. 捕獲岩にしばしば見られる反応帯の大部分は, 溶融時にはマグマと平衡にあった難溶性残滓が, マグマの上昇後にマグマと非平衡になり反応したものである.
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