本研究の目的は、高性能ブリルアン分光系を確立し、これを用いて半導体基板上の超薄膜や多層構造を持った超格子薄膜の性質をブリルアン散乱により評価することである。今年度は磁性多層膜の評価に重点をおいて研究した。 1.可視光に対して不透明な金属薄膜のブリルアン分光ができる高性能タンデム5重透過型ファブリ-ペロー干渉分光計の開発と改良を行い、制御系の改善により大学院生などでも容易に使用できるものを完成させた。また大型空気バネ除振台を導入して測定系の長時間安定化に成功した。 2.時期記録媒体として今日重要な磁性金属多層薄膜の特性を、ブリルアン分光で系統的に研究することを開始した。まずSi基板に付けたCo単層膜の磁気的性質をマグノン(磁性波)のブリルアン散乱により調べた。膜厚が薄くなると、飽和磁化やg値が変化しだし、超薄膜状態では、島状膜形成や基板からの拡散による影響が現れてくることが明らかになった。 3.Co- SiO_2-Coの3層膜を電子線ビーム蒸着法で作製し、この積層膜の界面に立つマグノンをブリルアン・スペクトルとして観測した。表面マグノンとして2つのモードが観測でき、その分裂の大きさよりCo2層のマグノン波に相互作用があることが分かった。これらの磁場依存性を解析することにより、Co積層薄膜の飽和磁化、g値を決定した。また中間層が非磁性の金属膜であるCo-Nb-Co、Co-Au-Coの場合を調べ、中間層金属の種類により、2つのマグノン・モードに働く相互作用が異なることを明らかにした。この原因は結晶系の違いによりものと考えられる。 4.垂直磁気記録材料として開発の行われているTb/(Fe、Co)の多層膜について測定を行い、非対象で幅広いブリルアン・スペクトルとして観測されるマグノン波が8-30層の多層膜に立つ多重マグノン・モードから成り立つことを、解析結果より証明することができた。
|