本研究の目的は、高性能ブリアン分光系を確立し、これを用いて半導体基板上の超薄膜や多層薄膜の性質をブリルアン散乱により評価することである。今年度は、本研究の最終年度であるため、高性能ブリルアン分光系を完成させることと、磁性多層膜および磁気記録媒体としてのコバルト合金膜のブリルアン散乱による評価に重点をおいて研究した。 1.不透明な金属薄膜きブリルアン分光ができる高性能タンデム5重透過型ファブリ-ペロ-干渉分光計を開発した。今年度は、長時間の安定度を増すための制御系の改善を重点的に行い、初心者にも測定の容易なブリンアン散乱分光系を完成させた。また空気バネ方式の除振を十分に行った結果、外部からの振動を十分に除去でき、精度の良い測定が可能となった。 2.垂直磁気記録媒体として研究が行われているTb膜と(Fe、Co)膜を交互に重ねた多層膜のスピン波スペクトルをブリルアン散乱で測定した。その結果、8-30層の多層膜に立つ多重マグノンモ-ドが観測されたが、これらは、互いのモ-ドスペクトルが重なって現れた非対象で幅広いブリルアン・スペクトルである。多層膜の表面スピン波モ-ドを成分とした解析を行い、これらのスピン波スペクトルを定量的に説明することに成功した。 3.面内磁化・高密度磁気記録媒体として、Co-Pt合金膜をスパッタ-法で作製し、このスピン波スペクトルの合金組成に対する依存性を測定した。合金膜では、スピン波のスペクトル幅が広がっており、この広がりは、合金膜の結晶粒構造と関連していることが、電子顕微鏡観察との対比で明らかになった。Co磁性粒子を隔てるPtの役割を定量化するため、Ptを中間層とするCo2層膜を蒸着法で作製し、このPt層を介する交換相互作用をPt層の膜厚に対して求めた結果、20A以下の膜厚で交換相互作用が急激に増大することが分かった。これより磁気記録薄膜として、最適の膜構造と合金種類、組成を決定できるよう検討している。
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