研究概要 |
本研究の目的は、高性能ブリルアン分光系を確立し、これを用いて半導体基板上の超薄膜や多層薄膜の性質をブリルアン散乱により評価することである。昭和62年度から3年間で得られた成果は、次のようにまとめられる。 1.不透明な金属薄膜のブリルアン分光ができる高性能タンデム5重透過型ファブリ-ペロ-干渉分光系を開発した。このため光学系の設計、多重透過方式についての新しい試み、ピエゾ素子の加工、電気制御回路製作を行い、長時間の安定性が高く、初心者にも測定の容易なブリルアン分光系を完成させた。また大型空気バネ除振台を導入して、外部からの振動を十分に除去した結果、精度の高いブリルアン散乱分光測定が可能となった。 2.Si基板上のCo-Au-Co3層膜、Co-Nb-Co3層膜のスピン波ブリルアン散乱スペクトルを測定し、非磁性金属を介したCo2層膜に働く交換相互作用について調べた。この相互作用は、NbよりもAuを介する場合の方が大きく、伝導電子の密度の違いによると理解された。垂直磁気記録媒体としての研究が行われているTb膜と(Fe,Co)膜を交互に重ねた8-30層の多層膜のスピン波スペクトルは、層数と同じ多重マグノンモ-ドが現れるが、これらは互いに重なって非対称で幅広いブリルアン・スペクトルとなっている。多層膜の表面スピン波モ-ドの解析を行い、これらのスピン波スペクトルを定量的に説明することに成功した。 3.面内磁化・高密度磁気記録媒体として、Co-Pt合金膜をスパッタ-法で作製し、このスピン波スペクトルの合金組成に対する依存性を測定した。合金膜ではスピン波のスペクトル幅が広がっており、この原因は合金膜の結晶粒構造と関連していることが明らかになった。Co磁性粒子を隔てているPtの役割を定量化するため、Ptを中間層とするCo2層膜を作製し、このPt層を介する交換相互作用を求めた。これより磁気記録薄膜として、最適の膜構造と合金種類、組成について検討を行った。
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