研究概要 |
本研究は2か年計画で実施されているものである. その初年度にあたる昭和62年度の研究は, 当初の計画通り進渉している. まず理論的での成果として, 流体媒質中に置かれた球または円柱状の物体による超音波散乱に関する厳密解を得たことが挙げられる. この理論において, 入射超音波は平面波, 球面波, 近距離音場波とした. とくに近距離音場波は, その複雑性の故に, 従来は解析的な散乱計算が不可能とされていたものであり, その理論の開発に成功したことは世界的に誇り得るものであると考えている. 上記理論に基ずいて数値解析を行った結果, 球体による超音波散乱ではその固有振動数の近傍で, 散乱波の振幅が異常に大きい値を示す物質と, 逆に, 異常に小さな値を示す物質, あるいは特別の変化を示さない物質が存在することが判明した. このような現象は円柱状物質においても現われるが, 定量的には, 球の場合と格段の相異を示すことがわかった. この現象の生ずるメカニズムについて研究した結果, 散乱体における縦波速度と横波速度の大きさ及びそれらの相対比ならびに物体と媒質の密度比に密接に関連しているとの知見を得た. 従来, 散乱の問題は散乱体外部の場における波動の干渉や回折効果の結果としてのみ説明されることが多かったが, 本研究の理論および数値解析によれば, むしろ散乱体内部の共振や振動姿態の違いが散乱パターンに深くかかわっていると考えざるを得ない. この開発された理論によってあらゆる物質の, 異った条件での散乱パターンが計算できるようになった現時点においては, 散乱パターンの違いを定性的かつ定量的に, いかにして体系的かつ抽象化して説明するのが良いかが問題となっている. 本研究では無定見な実験を繰り返す前に, 理論面から数値解析を手段として徹底的な解析を進めることにより問題の解決をはかっている.
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